東京大学教授 藤本隆宏様インタビューその4|インダストリー4.0にどう対応する?


JMI生産・開発マネジメントコースの主任講師である
藤本隆宏様(東京大学大学院経済学研究科教授 東大ものづくり経営研究センター長)にお話を伺いました。
日本能率協会の安部武一郎がインタビューいたします。(以下敬称略、所属役職はインタビュー当時)

インダストリー4.0にどう対応する?

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安部
複雑なものやややこしいものについては、日本にやはり強さがあるというメッセージを先生はよくおっしゃっています。

設計者はずっと困難を追いかけなければなりませんから、大変でしょうが、そこに日本の強みがあり、今後もそうあり続けるとお考えですか。

藤本
そうですね。

開発現場にしろ、生産現場にしろ、それなりに雇用の安定性のある職場にあきらめない人たちが集まり、「何としても生き残る」という不退転の強い気持ちでチームワークをもって取り組んでいれば、普通だと突破できない難しい問題を切り抜ける力が出てきます。

そういう人たちが集まっている調整型、チームワーク型の現場にふさわしい製品は、連立方程式が解けるか解けないかのギリギリのところで辛くも解いていくような、インテグラル型・すり合わせ型の製品なのです。

非常に複雑で、複雑な連立方程式を解かなければならないような製品になります。

具体的には高機能な自動車がその代表例でしょう。

いわば重量が1トンもあるものが公共空間を走るという現実は、AIがどんなに進歩しても変わりません。

だから、もちろん自動運転もある局面においては、非常に重要な役割を果たすでしょう、けれども、すべてがレベル4の完全自動運転に変わるとは考えにくいです。

切迫した社会の、ニーズからしてもそうなるはずです。

今から考えてみても、AIがすごい勢いで伸びてきたとしたとき、AIのためのAIのような議論がいっぱい出てくるでしょう。

ただ、自動運転に関しては、何のためにやるのかがはっきりしないといけません。

それがないと、自動運転ビジネスを開発したところで意味がないでしょう。

例えば、高齢化して過疎化した地域の問題を考えてください。

過疎の村で運転免許証を返上したおじいちゃん、おばあちゃんが、どうやって病院へ行けばいいのでしょうか。

1日に1本しかないバスを待つのでは不便すぎます。

そんなとき、村に1本のレベル4自動運転の専用レーンがあり、そこを自動運転車が走って病院へ行き来できたとしたら、当事者にとっては魅力的です。

あるいは、今から10年、20年が過ぎると、80歳を超したのにまだ運転しているベビーブーマー世代の高齢者がたくさんいると思います。

運転は人生の張りや活力になっているのですが、運転を続ければ事故も増えるでしょう。

高齢ドライバーが人を殺してしまっては大変ですから、家族会議をやってでも運転をやめてもらいます。

ところが、それで高齢者ががっくりと活力を失い、元気をなくすことも考えられます。

人間は自分の意思で動けるというのは、かなり上位レベルの欲求だからです。

元気に運転している高齢者がいる一方で、交通事故を引き起こしたり、運転中に亡くなってしまい、人を巻き込んでしまったりすることもあるかもしれません。

そんなときに必要となるのは、よくいわれているレベル3の自動運転、つまりいざとなったら人が介入しますから自動運転しておいてくださいというものではないと思います。

これは「逆レベル3」というべきでしょうか。

普段は高齢ドライバーが元気に運転していて、実は隣でAIも運転していて、問題がないときはしゃしゃり出てきません。

しかし、運転者がパニックを起こしたり、急加速など変なことをやったりしたら、教習所の教官のようにAIが横からバンとブレーキを踏みます。

あるいは路側へつけて強制的に停車します。

つまり、自動運転が人をオーバーライドするわけです。

その方がよほど現実的な対応だと考えています。

この場合のAIは「いつでも代わりますよ」といってくれる陰の運転手のような存在です。

だから、AIにせよ自動運転にせよ、われわれの社会にとってどういうニーズがこれから切実になってくるのか、という視点から考えなければいけません。

そうした切迫した問題に対する解決策として、自動運転やAI、あるいはその他の次世代技術が出てくるのではないかと思います。

これはきっと工場も同じでしょう。

工場の次のインテリジェンス化の話です。

人が足りなくなる中で必要になってくるはずです。

安部
これを読んでいる方は、IoTやインダストリー4.0、AIなどにすごく関心を持っていると思います。

ただ、今の時点では「それは何なのか」、「何に使えるのか」と考えている人も多いようです。

私たちはいつも「企業には目的や経営課題があり、それを達成するためにそれら新しい技術を使いこなすことが必要だ」と伝えるようにしています。

だから、読者の方に今の先生の話はすごく響くと感じました。

藤本
やはりドイツの産業人やエリートは長期的な未来のことをよく考えています。

なぜ、ドイツがよく考えるかというと、いわば身体があまり速く動かないからです。

つまり、開発や生産のリードタイムや生産性を見ると、日本の優良企業と比べかなり長いことが多いのです。

その代わりに頭をよく使っています。
そして長期的で大きなビジョンを打ち出してきます。

逆に日本のメーカーは軽快に動けるから、その分頭を使わないところが若干あります(笑)。

それで、ドイツ勢からすごく深い洞察から「未来はこうだ」といわれると、おたおたしてしまいます。

「えっ、そういうことなのですか」などといっておたおたしていたら、相手の術中にはまってしまいます。

こちらもドイツ人が何を深く考えているのかをきっちり理解したうえで、自分たちがどうするのかを考えないといけません。

組織能力的にも戦略的にもドイツの企業の現場とは違う立場にあるわけですから、ドイツと同じことをすれば良いという理屈には必ずしもなりません。

むしろ「ドイツがこう来るなら、こっちはこうだ」という識見を持ち、現場・現物と理論・哲学にもとづいた自信を持った行動をしていただきたいと思います。

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